リトアニア文化論Ⅰ 〜言語的側面からみたリトアニア〜
リトアニア文化論シリーズということで計3回にわたり、リトアニアの文化を深堀していきたいと思う。第一弾となる今回は、言語という側面からリトアニアを探求していこう。Vilnius大学の社会言語学者Meilutė Ramonienė教授と話す機会があったので、そこでの話も盛り込んでいきたいと思う。
まずリトアニアにはどのようなエスニシティ*1がいるのか見ていこう。
上表*2からわかるように、当たり前だがリトアニア人の割合が一番多い。隣国のポーランドやロシアからの移民*3が2番目3番目を占めている。またベラルーシやウクライナからの移民も多い。これらは旧ソ連時代の名残で、ソ連時代この4カ国の民族が住んでいたことに起因している。そのため、リトアニアではこれらの言語が利用されていることが容易に思いつく。では具体的にどんな言語がリトアニアで利用されているのだろうかという疑問が浮かぶ。
下の表は、リトアニアの小学生を対象に調査した、自宅で話されている言語の統計データである*4。
リトアニア語が予想通り一番話されている。ロシア語が二位である。そして面白いことに、3位に英語がランクインしている。将来のことを考えて自宅で母語でない英語を話す家庭が増えている。また、英語の子供向け番組のほうが現地語よりも面白いということで、自宅で英語が使われることもわかっている。もちろんこの中には、しょうがないから英語番組をみせるという家庭もあり、それが英語能力の向上にもつながっている。これは面白い。リトアニアにおいて英語ができると何がいいのか。
ここから特にロシア語と英語に注目しよう。
年代が若いほうが英語の話者が多いことがわかる。逆に反比例するようにロシア語の話者が減っている。言語は年代とともに移り変わることがわかる。もともとソ連時代、リトアニアではロシア語が話されている。ロシア語が必要な仕事は、高い年齢層の人ならある程度誰でも出来てしまう*5。しかし英語と来れば、一気に牌が減る。こういった理由も英語人気に起因しているようだ。
関連してイギリスの北部にはリトアニア人コミュニティが存在し、アメリカにもいくつかコミュニティが存在している。平均月収644€*6のリトアニア人にとって、英語圏のほうが高収入を狙える。そして、収入が高い人ほど、リトアニア国内でも英語運用能力が高いことがわかっている*7*8。
今、リトアニアでは英語話者の数が増加している。所得がまだ低いリトアニアにおいて、英語という言語は、高収入に繋がる必要条件となっている。そのため英語を学ぶ若者が増えている。更に、英語にとどまらず、他の言語を学ぶ若者も一定層いるのは確かで、3ヶ国語以上話せる人が今は増えている。これはおそらく、英語を話せる母体数が増えてきているので、もう英語だけでは付加価値が少ないからであろう。優秀な若者ほど、多言語話者となっている。こういった背景もあり、リトアニアに世界から企業が集まってきているということがうなずける。
もちろん首都のビリニュスとその他の地域では、英語話者の数に差があるのは明らかで、 首都のほうが多い。またロシア語の話者も首都が多い。
以上のように、言語という側面からリトアニアを見てきた。次回は、思想と慣習という立場からリトアニアを見ていく。
*1:民族という考えてよい。ただ正確にはNathan Glazerの定義“一つの共通な文化を意識的にわかち合い、何よりもまずその出自によって定義される社会集団”としている。
*2:出典:European Commission
*3:移民という言葉を使っているが、ソ連以前から住み着いた民族も含めている。
*4:Meilutė Ramonienė教授の調査による
*5:もちろん経歴に依拠する部分もあるが、今回は言語という議論においてと限定しておく。一方で、年齢がある程度高いほうがお年寄りとも会話しやすいということで、高い年齢層のほうが採用されやすいというのは、正しい。
*6:2017年度データ, Rankings by Country of Average Monthly Net Salary (After Tax) (Salaries And Financing)より
*7:Meilutė Ramonienė教授の調査による。
*8:注意しなければいけないのは、英語運用能力が高いから収入が高いという相関関係になっていることである。その逆ではない。