ぼそんの東欧見聞録〜リトアニアに住んでみました〜

大学院で量子論の研究をしていましたが、訳あって1年間リトアニアで働くことになりました。4月から5月末までは英国に滞在し、その後リトアニアへ。   リトアニアも含め欧州の情報を徒然なるままに記します。

インタビュー:英国で働く日本人に見る、働き方とワークライフバランスについて

先日、イギリスの語学学校ETCマーケティング担当として働く日本人、積田真奈美氏にお会いした。英国という土地に身を置く立場として、日本と英国の働き方の違いについて伺った*1

日本とイギリスの働きやすさの違いは何か――。

 

 

――まずはじめに、どうして英国で働こうと思ったのですか?

 

 大学を卒業後、英語を使う仕事がしたくて、日本で、英会話教室の営業として働いていました。もちろん給料も良かったから(笑)。

 でも英語って目に見えないものだし、顧客にどうやって価値を見せるかが大変だった。更に、自分の考え方と会社の考え方に相違があり、仕事に行き詰っていたの。そんな折、たまたま職場で知り合った英国人男性とお付き合いすることになったのよ。彼も同じような悩みを持っていて、英国に帰ると言ったの。だから私も勢いに任せて英国に行くことにしたの。お互い日本でなにか閉塞感みたいなものを感じていたから。

 英国に来てから仕事を見つけた。たまたま夫が働いているところで、マーケティングのポストが開いていたから応募したら、見事採用された。

 

――英国で働いてみて、閉塞感は感じますか?日本との働き方の違いなど教えてください。

 

 英国のほうが女性の地位が認められていてすっごい仕事がしやすい。日本では、どんなに頑張っても結局は男性が上。上司はほとんど男で、産休は日本では取りにくい。本当によく聞く話だけど、職場復帰したところで、同じ条件で働けるわけがないのに、働かせようとする。子供がいるから定時で帰ろうものなら、いいように思われなかったり嫌味を言われたりする。もちろん全ての日本の職場がそうとは言わないけれど、私の周りはすべてがすべてそうだった。女性として働こうとしても、先が読めない。そういう意味で閉塞感を感じていたのかもしれないね。

 でも英国は、さっきも言ったように女性の地位が保証されているの。どんどん上にもいけるし。しかも職業面接の時、性別や年齢を聞かない・気にしない。ありのままの自分を見てくれるの。日本では”What are you?”*2が重要だけど、こっちでは”Who are you?”*3のほうが重要なの。だからピアスをしていようが、タトゥーをしていようが、髪が染まっていようが関係なく、仕事ができるかどうかが重要になる。

 関連して、給料は野球の年棒制みたいになっているの。月に2,3回給料がもらえるから、こっちの人は基本貯金しないよね。「自分今週これだけ稼いだのか。」って思って、お金あると使いたくなるでしょ(笑)

 あとは、よく言われることだけど、こっちの人は自分中心だね。人の仕事を助けるという感覚は英国人にはない。日本の場合は、他の人の仕事を助けて、上司が帰るまで先に帰れないという暗黙の了解みたいなものがあるけど、イギリスはそういうのがない。定時になればすぐ飛び出していく。

 さらに、英国は副業が認められているとこが日本と違うね。私も副業しているし。他にもこっちの人は、趣味の時間を大事にするから、そこから自分磨きしたりして、次の仕事につなげたりすることもできる。ワークライフバランスがとても整っていると思う、日本だと、遅くまでずるずる仕事して、そのせいで次の時間が直前まで決まらない。疲れて趣味の時間も取れない。日本人は仕事が趣味かもしれないね。

 

――ここまで、話を聞くと英国のほうが職場環境が優位のように感じますが、逆に英国での職場に対する不満はありますか?

 

 職場によるのかもしれないけど、こっちの人は意外にも仕事が遅い。もちろん期限内にしてくれるんだけどね。そして仕事が雑。

 あと、職場にゴミが落ちていても、拾わずにそのままにしておく。これは、ゴミ拾いの仕事を奪ってはいけないという思いがあるのかもしれないけれども、基本落としたものは拾わない。そこかな。

 

――最後に、一言お願いします。

 

 他者を助けたりと、日本には日本の良さがあるのは確か。でも働き方改革云々言われている今こそ、女性の働き方を見直すことが大事。”Who are you?”を大事にし、女性の地位を認めている英国に働き方のヒントがあると思う。

 

私はこの対談を通して、2点思ったことがある。

(1)日本の丁寧さ

(2)日本における働き方改革の議論

 

(1)日本の仕事のほうが丁寧と感じる場面が非常に多い。身近な例で示すと、店員と清掃が挙げられる。店員は、商品の梱包が雑だったり、そっけなく商品を渡すことがほとんどである。日本のスーパーでは殆どの店員は丁寧に対応してくれる。またこちらのトイレは、掃除後でも汚い。日本のトイレの綺麗さには、本当に驚く。日本には「お客様は神様」という考えがあるから仕事が丁寧なのかもしれない*4

この丁寧さは、確かに海外では日本の武器になると強く感じた。

 

 

(2)英国と日本の年間平均労働時間を比較することにした。*5

 

  データからもわかるように、日本人のほうが労働時間が多い。更に上記の日本のデータには、残業時間が含まれていないので実際はもっと多く働いている。もちろん、単純に労働時間を比較して、多い少ないの議論はあまり意味がないように思える。実際アメリカのほうが年間平均労働時間は日本よりも多い。例えば、労働生産性=GDP/(就業者数×労働時間)を算出し、そこから働き方の効率を比較する方法もある。実際に、2015年度を比較すると、

 英国 =86,490ドル

 日本 =74,315ドル

である*6

英国のほうが効率がよく見えるが、このような比較をしても、GDPに依拠するので*7、100%自信を持って「英国のほうが効率よく仕事をしていることが定量的にわかる。」とは断言できない。

しかしながら、真奈美氏が指摘するように、多く働いている方が、自分の時間が取りにくいことは確かである。自分の時間を確保し、ワークライフバランスを整える。そして、重要なことは、最小時間で最大効率の仕事をすることではないだろうか。 

 働き方改革は、最小時間で最大効率という最適化問題を解くことだと思う。

*1:もちろん個人の感想であり主観的な部分もあるが、日本にいる日本人よりも日本と英国を比較でき、日本を客観的に見れるのは確かである。

*2:自分がどこ出身で、どこに属していたのか。いわゆる学閥や肩書。

*3:自分がどういう人間なのか。何ができるのか、どんなことがしてきたのか。

*4:一方で、この結果モンスターカスタマーが日本で生まれるのも確かである。

*5:出典:"OECD.stat", 2016.

*6:"OECD.stat, 2016"のデータを使用し計算した。

*7:日本は現在新しいGDP体系(2008SNA)を使っているが、データは旧体系(1993SNA)を使用していることもある。2016年度データが見つからなかったのでやむを得ず2015年のデータを使用。